アメリカ進出 成功の秘訣6 Morinaga Nutritional Foods, Inc.雲田康夫 氏

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アメリカ進出 成功の秘訣 その6

3年や5年でアメリカで物が売れるとは考えないこと。
10年間支援できないのなら進出してきてはいけない。

KumodaMorinaga Nutritional Foods, Inc. Founder
Yasuo Kumoda (雲田康夫)氏

アメリカ人の一番嫌いな食べ物「Tofu」
1985年に渡米して現地法人を設立。豆腐の販売を開始しました。3年から5年で自立しろというのが会社側の方針でしたが、なかなかうまくいかない。一番苦しかったのは、1988年にUSA Todayの記事で「アメリカ人の嫌いな食べ物」としてトーフが一番になったことです。

当時のトーフの不人気を象徴する出来事がいくつかあります。
交渉に行ったレストランチェーンのバイヤーからある日、トーフを数ケース送ってくれと依頼がありました。喜んで話をしていると何かおかしい。よくよく聞いてみると、トーフが大好物だというのはその家のイヌのことでした。

またあるとき、フードショーに出展していた最中に、忙しさのあまり5ケースほどの商品を路上に置き忘れてしまいました。それに気がついたのが夜中。悩んだあげく翌朝一番に現場へ行くと、朝霧の中にトーフが5ケース、誰も手をつけず、盗まれもせずに放置されていました。

1992年のロサンゼルス暴動の折には、トーフを扱ってくれていた韓国系スーパーが略奪の被害に。それをテレビ画面で知ったのですが、お見舞いにオーナーへ電話をすると「心配しなくていいよ」という。「あなたのトーフは誰も手をつけなかったから」。

路上に一晩放置しても誰も持って行かない。略奪者にも見向きされない。トーフはそんな不人気な商品でした。

大統領夫人が「Tofu」と言った!
もう、会社を閉めようかと悩んでいた矢先、ミセス・グッチー(ホールフーズマーケットの前身)という食料品店で、年配のアメリカ人女性がトーフをカゴに無造作に投げ込んでいるのをみかけました。どうやって食べるのかを聞いてみたら、トーフ・シェイクにするという。その時に初めて「豆腐は四角で白い」ということは、アメリカ人にとってはどうでもよいことであることに気がつきました。これまでの考え方を根本から変える必要がありました。日本のままでは売れない。パンには冷や奴はなじまないのです。

それまでは、冷や奴、麻婆豆腐、味噌汁、これで日本の食文化を紹介しようと考えていました。ところがどれもうまくいかない。アメリカ人には「旨み」という味覚がわからない。冷や奴の上にかけた鰹節を気味悪がる。鰹節を手で掴んでかけたのを嫌う。アメリカ人の主婦は料理をしないから、味噌汁を教えても作らない。麻婆豆腐のデモンストレーションでは、ソースの方が人気になる。その上ソースに動物性エキスが入っていたことでベジタリアンに嫌われる。そんな状態でした。

トーフ・シェイクに出会って元気づけられていたころ、ある日クルマのラジオを聞いていると、有名なアンカーマンのインタビューの中で、ヒラリー・クリントンが「トーフを云々」と言っているのが耳に飛び込んできました。それは「ビルはジャンクフードが大好きで高血圧なので、豆腐を食べさせたい」と言っていたのでした。その上「Tofu」と言っている。アメリカでは「soy bean curd」という単語が浸透していたのに、ヒラリーは「Tofu」という日本語を使っていました。トーフは、じわじわとそこまで浸透していたのです。ヒラリー・クリントンの発言をきっかけに、ニューヨークタイムズやワシントンポストにも取り上げられ、これまで相手にしてくれなかったバイヤーからも注文が入るようになり、トーフが一気に広がっていきました。

アメリカに来たなら、アメリカのやり方で
「郷にいれば郷に従え」という言葉があります。アメリカに来たらアメリカのやり方でやらなければなりません。アメリカ人がどんなものが好きなのか、学ばなくてはなりません。

USA Todayの記事が出た時、どうしてトーフがアメリカ人の一番嫌いな食べ物なのか調べる目的で、世帯の年間所得が違う3家庭にホームステイをして家族と同じ料理を食べさせてもらいました。年収3万5000ドルの家では週7日のうち5日はマクドナルドや冷凍食品とマッシュポテト。お腹いっぱいに食べられればいいという食事です。トーフやスシという話題も出てきません。6万5000ドルの家庭は、冷凍食品、缶詰、マッシュポテトなどのプレートディッシュ。スシは知っていたものの食べた経験は無し。年収9万5000ドルでようやく、スシに月に1回は行く家庭でした。

アメリカ社会は、日本では考えられないほど格差があります。トーフが分かる人は学校をある程度出て、栄養学が分かる人です。英語では植物性脂肪も動物性脂肪もすべて「fat」ですから、この差が分かる人でないとトーフの価値が分からないのです。

日本ではテレビでコマーシャルすればわかりますが、アメリカ人には通じません。広告、販促活動、すべてやり方を変える必要がありました。

駐在員は、英語力よりも困難に立ち向かえる精神力
アメリカへ送る駐在員を英語の能力で選ぶ企業が多いですが、特に消費者に物を売る場合はこれは止めて欲しい。英語ができてもビジネスができなければ、どうしようもない。そんな事業は失敗が目に見えています。英語の能力より、仕事に悩んで自殺しない人、その国の人たちがどんなことを求めているのか柔軟に対応できる人、情熱を持って仕事にチャレンジできる人。きれいな英語は必要ないのです。ボディランゲージでも情熱が伝わればいいのです。

また送り出す側は、3年や5年でアメリカで物を売れるとは考えないことです。10年間は金銭と心の面で支援する必要があります。それができないのなら海外に進出してはいけません。なぜなら3年ぐらいで失敗したと見なされては、せっかく送り込まれた優秀な人が能力を埋められてしまいまうからです。これは経営者に言いたい。
来た人には、これはアメリカにいる若い人にも伝えたいことですが、自分に与えられた仕事は、10年間我慢して足下を掘ってみること。たとえ10年後に水が出てこなくても、10年間一所懸命に続けたものからは、何か得られるものがあります。

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Yasuo Kumoda (雲田康夫)氏
Morinaga Nutritional Foods, Inc. Founder

1985年渡米、森永乳業米国現地法人Morinaga Nutritional Foods, Inc.を設立。豆腐の販売を開始。「ミスター・トーフ」と言われて20年。アメリカ人の一番嫌いな食べ物ナンバーワンの豆腐をアメリカ人の日常食にまで広めた。

雲田氏のアメリカでの奮闘は、著書「豆腐バカ 世界に挑む」をお読みください。

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